・日本・日本人12

 たまたま、加瀬英明氏の記事が目につきました。何の事か忘れましたが、或る時、私の考えからしますと、外交評論家でありながら、とんでも無いことを、述べていましたので、彼を信用していませんでした。しかし、今回面白いことを述べています。

 今から130年あまり前になる明治25(1892)年に発刊された、『雙解英和大辞典』(東京共益商社)を私蔵されているそうです。
 西洋から伝えられた言葉で、現在では、一般的な翻訳語に成っている言葉でも、実は、130年前には無く、もっと後で、日本語の中に組み入れられたようです。
 この辞典でリーダー「leader」をひいてみますと、「案内者、嚮導(きょうどう)者、先導者、指揮者、首領、率先者、巨魁(きょかい)、総理、首唱者」と説明されているそうです。まだ、「指導者」という言葉がなかったのです。
 今日では、「独裁者」という言葉も、日本語のなかにすっかり定着していますが、ディクテーター「dictator」をひくと、「命ズル人、独裁官、主宰官(危急ノ時ニ当リテ一時全権ヲ委ネラレタル)」としか、説明されていません。
 英語の言葉に相当する概念が日本に無く、言葉もなかったと言うことになります。

 もともと「神話」と言う言葉もなかったようで、先の英和辞典でmythologyをひくと、まだ「神話」という訳語がなく、「神祇譚、神代誌神怪伝(異教ノ)」としか、説明されていないそうです。徳川時代が終わるまでは、神話を「ふること」といい、古事(ふること)、古言(ふること)という漢字が、あてられ、『古事記』は「ふることぶみ」と、読んでいたそうです。

 その神話ですが、神話の最高神が女性というのは、どうも日本だけのようです。その天照大御神が、天の岩屋に籠(こも)られると、全宇宙が暗闇に閉ざされてしまいました。 八百万(やおよろず)の神々が、天(あめ)の安(やす)の河原に慌てて集まって、どうしたらよいものか、相談。日本においては、合議制のようです。

 604(推古12)年に、聖徳太子が制定した『十七条憲法』に於いても、第10条目では、「自分だけが頭がよいと思ってはならない」と、諭していますし、第17条では、「重要なことを、ひとりで決めてはならない。大切なことは、全員でよく相談しなさい」と、定めています。さらに、明治天皇五箇条の御誓文にしても「広く会議を興し、万機公論に決すべし」と有ります。

 国の呼び名からも、日本人の国柄が忍ばれます。即ち、日本では祖国を指して、「母国」としか呼びません。しかし、英語、ドイツ語ではファーザーランド、ファーターラントといい、フランス語にもラ・パトリ――父国という、表現しかないそうです。

輸入外国語が、もともと日本人が待っている概念を、変質させているかもしれません。また外国との違いから、古き良き日本の心を探り当てたいものです。